2012-05-05
連作小説『少年の夢/少女の夢/架空都市の夢』
【ゆめは、みない】
日曜 午前7時58分。
もらい物17インチのブラウン管テレビの真ん前に正座。
スカートの中で折りたたんだ脚が蒸れて汗が垂れる。真夏の陽射しが夕香の小さな顔と左腕を灼いて痛い。可愛らしいと評された色白の顔も今では日に焼けて細い眉がきつく寄っている。
空が青いというだけで、夏のテレビの前には夕香と夫の明は座らない。おんぼろ鉄筋アパートのいいところは強烈な直射日光が当たりまくることだ。
職場に行く前から体力をなくしたくないでしょ。上京してから身につけた説教スキルを発動すると旦那の明は一言うんと言っただけだった。そういうわけで二人の夏の食事処は日陰の湿った台所になる。
神妙な顔つきの夕香は潜水でもするのかと思うほど深呼吸して、反応の悪いボタンを押し込む。ぷつんと点る画面。左上の時刻は7:59。喧しく鳴く蝉の声も鬱陶しい暑さも扇風機が押し出す厚みのあるぬるま風も、身を乗り出す彼女を避けるようにしずしず遠のいた。
痩せて細い喉がごくんと動く。叶うならばひれ伏したい。身体中がひりひりする。薄い唇を噛むと、やけに肩を怒らせ、日曜恒例の緊張で膝の上で拳を握った。
真夏だというのに彼女の指はあかぎれている。毎日曲げるのも一苦労だと愚痴をこぼしてからゆっくり痛みに耐えて曲げるのに、今だけはその痛みも忘れられる。
8:00
徒競走の号令のように爆ぜる軽快なアメコミ調メロディ。
疲れた夕香の薄暗い眉間にわあっと無邪気なきらめきが広がる。いっときだけ子どもに戻れる瞬間。久し振りに帰宅した夫が寝ている和室を誇らしげに見つめた。
画面に躍り出るタイトル。
【ランガン℃】
さりげなく、それでいてしっかり自己主張しているちょこんと跳ねた℃の字体をいつも我が子のように愛おしく思う。壁に掛かったカレンダーの端がちょこんと跳ねてるだけで苛々するっていうのに、夕香はそのふざけた字体を許せる。なぜって、そりゃあこのアニメが好きだから。好きなものは許せるけど、好きじゃないものは許せないでしょ。
眠りについている子供心をくすぐるように随所に散りばめられた懐かしくも新しい小ネタ。整えられた街並みの微細さ。軽快なアクションシーン。先へ先へと引っ張られる展開。お見事! と拍手喝采する複線の回収。身を乗り出してはにやけてしまう。
彼女のお気に入りキャラは、今、画面の中で大騒ぎしてるブルー。変身前の格好はダサいし、しょっちゅう敵(厳密には敵対者。世界を変革したいとほざくので、家の財政を変革して欲しい夕香にはたいそう嫌われている)につかまって仲間の足手まといなくせに、ここぞの場面で誰かのピンチを救う。必ず。絶対に。ありがとうとかそんな言葉を言われるとそんなこと何だって言うんだい? って、きょとんとした顔をするのだ。
「そこがいいんじゃない。萌える!」
彼女がブルーの(正式名はブルーじゃないが、彼女達の間では青だのブルーでとおってる。主人公四人にテーマカラーが存在して、持ってる武器も色に関係のある物だ)良さを力説すると、このアニメの下請けの下請けくらいに携わっているらしい明の覇気のない目が一気に燃え上がって
「萌えるいうな! あのキャラデザの大変さを分かって言ってんのか!」
勢いよく箸を叩きつけて切り返して滔々と蘊蓄を語り出す。
その時だけは、澱んで粘った得体の知れない塊が微睡むこの家もエレクトリカルパレード並の電飾を点したように華やかになって塊の存在を忘れさせてくれる。
夫の明はアニメーターで、この家で夕香が出来るのは週に何度か帰ってくる明に日曜のこのアニメの話をして一週間を保たせることだ。
仕事疲れで話半分に寝ながら聴いている夕香にはさっぱり分からないのだが、どうやら色々なアニメに携わっているらしい。小中高と同じだったが抜群に絵が巧い。画面のキャラが紙にそのまま浮かびあがってくる。それも鉛筆一本で。機嫌が良いときには(明は大抵忙しさに死んでる)彼女が好きなキャラを描いてくれる。キャラだけでなく風景や情景も。それらは夕香が職場からこっそり貰ってきた透明なビニール袋に入れて空気を抜き、セロテープで真っ直ぐ封をして黄ばんだ壁にテープで貼り付けてある。
とはいうものの、夕香のフルタイムの稼ぎがなければやっていけないのが現状。
画面のなかではニヒルでフットワークの軽いグリーンが青ざめた強盗犯を追いかける。この強盗犯、先週敵から解放されたキャラじゃない? 伏線だわ。
子ども向けアニメとは思えないほど写実的なタッチで描かれた強盗犯は車をフラフラさせて宝石をばらまきガードレールに激突、炎上、爆発の危機。そこへもう一人のヒーローが颯爽と登場。ブルーだ。だが彼は強盗の一人にぶん殴られてふらつき、変身に必要なキーアイテム――涙の滴を落としそうになる。ブルーは涙の滴を身体から離すと変身できなくなる。だったら何でもっとしっかり身につけておかないの! と夕香はいつも怒るのだが、設定がドジらしい。ドジで足手まといなくせに必ず助けるところが萌える。
きゃあっと叫びを上げるとあかぎれの痛みすら忘れ、黄ばんだ畳をばたばた叩いた。ドン! と隣人から壁を叩かれ小さくなるがすぐにまた画面へと釘付けになる。
強盗がちゃちな拳銃で応戦するがレッドとピンクは物ともせず見事強盗犯を逮捕。
犯人逮捕後恒例の二人の口げんかとED、次回予告でレッド役の声優が素敵に「またな!」と言うところまでがこのアニメの見せ所。夕香もまた格好つけレッドの「またな!」をきっちり確認する。
8:31
未だ興奮冷めやらぬ彼女の頬は赤く染まって幸せな溜息をつく。夢見心地で味の濃すぎる麦茶を一息で飲み干すとぶり返す蝉の大合唱と暑さに不幸せの溜息が漏れた。
ニュースチャンネルへと変えると、一気にトーンダウンしてあかぎれの痛みがぶり返す。コップを握った人差し指が縦にぱっくり割れて血が滲んでいる。ワセリンを塗り込んだものの塗っても塗ってもスーパーで水仕事をしている夕香には効かない。長靴を履いた足許から冷えが来て、手袋から冷たさが染み通ってくる。
まだ二十六歳だというのに、夕香はほとんど化粧っ気もなく、髪をひっつめ、しょっちゅう苛々して、子どもが出来ないことを親に穏やかに責められる。
そういう大人だった。
真面目なキャスターとコメンテーターが間の悪いことに出生率の低迷と一向に脱却しないデフレについて延々論じている。テレビを見ている夕香の眉間に皺が寄り初め、苛々し出す。今日もこの国は不景気まっしぐら。物価は上がって消費税まで上がる。電気料金まで上がるのだから、もう、どうしていいのかすら分からない。
彼女がパートをしているスーパーでも客はいつも殺気立っている。出来上がった総菜の形が違うだけで文句を言われる。何グラム多いか少ないか。その程度の差。その隙間に夢でも入ってるならまだしも、残念ながら何にも入ってない。
当然のことを当然と受け入れられないってわけじゃない。そんなことは分かって、はね除け、その上で怒るのは、もう、八つ当たり以前の問題だ。夕香は総菜を作るバックヤードから顔を上げるといつも気味が悪くなる。誰も彼もぴりぴりした空気に染め上げられて、顔に「許さない」と書いてある。許さないって誰を? 何を?
そんな自分もそんな顔をしていることに気づいて、気づきながらもどうにも出来ない。それがまた夕香を苛々させる。生理でもないのに。
「明くん、朝ご飯。今日も会社でしょ」
夕香は苛々を少しでも減らそうと左上に表示されている時刻を確認しただけで夫が寝ている和室の襖を開け、狭いキッチンへと戻る。額にはもう汗が浮いて、セールで買った半袖から伸びる腕はパート先までの炎天下の道のりで浅黒く焼けている。
のろのろ優雅に首を振る扇風機が憎らしい。
「――分かった」
突然差し込んだ朝日に布団の上で丸くなっていた男が呻いて、間抜けな溜息をつくと腕が伸びて枕元に放り出された眼鏡を手探りする。
毎週日曜の子ども向けアニメ【ランガン℃】
その制作に携わっているのが寝跡のついた布団から起き上がり、台所の小さなテーブルの前に腰を下ろした、トランクスとTシャツ一枚の冴えない25歳の明だった。目の下を真っ黒にして無精髭を生やし、ぼさぼさ頭のまま妻・夕香が用意してくれた朝食にありつく。
聞こえないくらいくぐもった「いただきます」の挨拶。
駅前商店街で特売だった70円の6枚切り食パン。98円の甘いだけのいちごジャム。端の焦げたベーコンエッグ。形の悪いトマトとキュウリが混じったポテトサラダ。買いだめしておいたインスタントコーヒー。賞味期限ギリギリの牛乳。
夕香の視線が和室と夫に交互に伸びる。逆光になった夫はいつもより暗く沈んで見えた。彼が座っているあたりがどんよりして光が屈折している。
「また描いてたの? あんまり寝てないんじゃないの?」
「うん……ちょっと」
端がほつれた青い水玉模様のカーペット。その上に置かれた小さなテーブルに二人で向かい合っての食事。マグカップだけは赤と白のペア。あとはバラバラで一緒に暮らすとき百円ショップで買った。
避けても避けても背中に降り注ぐ夏の朝日。開け放された窓。少し破れた網戸は直されることもなく、虫除けの薬剤が吊されている。網戸を張り替えるよりは、虫除けを買ってきた方が安上がりだ。ゆっくり回転する扇風機が運ぶぬるい風。クーラーはもう少し暑くならないと使えない。クーラーを付けただけで電気代が跳ね上がるのを二人は上京してから身をもって知った。ギリギリの綱渡りの毎日のなかではたとえ一円でも貴重。安い物は徹底的に安く。高い物は買わない。
駅に近いだけが取り柄の築二十年。壁が薄く隣の物音が聞こえる。顔を合わせても挨拶すらしたことがない隣人。気づくといなくなっている住人。
上京した当初、田舎育ちの明も夕香もあまりの違いに驚いていたが今はもう慣れっこだった。結婚して五年。月収は同世代の半分以下。アルバイトの掛け持ち不可能。切り詰め切り詰め生きていく生活。
「ねえあれ貰っていい? かわいい。ね、あのデフォルメ」
玄関側に坐った夕香から険しさが消え、夫と散らばった和室を交互に見比べる。這いつくばって遮光カーテンの引かれた和室の机の上から数枚の紙を手に取った。デフォルメされたブルーとグリーンのぱらぱら漫画。キックとパンチを繰り出して敵をやっつけ最後に「ラガーン」と決めポーズの二人が言う。ラガーンが変身する際の重要な掛け声なのだ。変身アニメに掛け声・ポーズ・変身シーンは必須。
「いいよ。あげる。好きなのあったら全部あげるよ」
明は眼鏡の奥の目を細めるとやけにはきはき応じる。
ブルーとグリーンを手に取り背中を向けた夕香はいつもと様子の違う夫に気づいたが黙っていた。彼は引っ込み思案でヘタレでダサいくせにここぞという時は全部決めて終わった後で言う。夕香に告白したときのように。あ、だからブルーが好きなのね。彼女はその時初めて納得した。なるほどブルーは夫にそっくりなのだ。
背を向けたまますべての紙をまとめていた夕香は、もそもそ食事に戻った夫に理由ない苛々を抑えつつ胸の裡で励ましを送った。
きっと彼が抱えているのは碌でもないことなんだろう。でも、明は明なりに夕香を考えて思って黙っていてくれるのだ。どうせ碌でもないことなら全部終わって後で聴いた方がいい。もう、何の手の打ちようがないってくらい終わっていれば、ほっとする。
(続く)
日曜 午前7時58分。
もらい物17インチのブラウン管テレビの真ん前に正座。
スカートの中で折りたたんだ脚が蒸れて汗が垂れる。真夏の陽射しが夕香の小さな顔と左腕を灼いて痛い。可愛らしいと評された色白の顔も今では日に焼けて細い眉がきつく寄っている。
空が青いというだけで、夏のテレビの前には夕香と夫の明は座らない。おんぼろ鉄筋アパートのいいところは強烈な直射日光が当たりまくることだ。
職場に行く前から体力をなくしたくないでしょ。上京してから身につけた説教スキルを発動すると旦那の明は一言うんと言っただけだった。そういうわけで二人の夏の食事処は日陰の湿った台所になる。
神妙な顔つきの夕香は潜水でもするのかと思うほど深呼吸して、反応の悪いボタンを押し込む。ぷつんと点る画面。左上の時刻は7:59。喧しく鳴く蝉の声も鬱陶しい暑さも扇風機が押し出す厚みのあるぬるま風も、身を乗り出す彼女を避けるようにしずしず遠のいた。
痩せて細い喉がごくんと動く。叶うならばひれ伏したい。身体中がひりひりする。薄い唇を噛むと、やけに肩を怒らせ、日曜恒例の緊張で膝の上で拳を握った。
真夏だというのに彼女の指はあかぎれている。毎日曲げるのも一苦労だと愚痴をこぼしてからゆっくり痛みに耐えて曲げるのに、今だけはその痛みも忘れられる。
8:00
徒競走の号令のように爆ぜる軽快なアメコミ調メロディ。
疲れた夕香の薄暗い眉間にわあっと無邪気なきらめきが広がる。いっときだけ子どもに戻れる瞬間。久し振りに帰宅した夫が寝ている和室を誇らしげに見つめた。
画面に躍り出るタイトル。
【ランガン℃】
さりげなく、それでいてしっかり自己主張しているちょこんと跳ねた℃の字体をいつも我が子のように愛おしく思う。壁に掛かったカレンダーの端がちょこんと跳ねてるだけで苛々するっていうのに、夕香はそのふざけた字体を許せる。なぜって、そりゃあこのアニメが好きだから。好きなものは許せるけど、好きじゃないものは許せないでしょ。
眠りについている子供心をくすぐるように随所に散りばめられた懐かしくも新しい小ネタ。整えられた街並みの微細さ。軽快なアクションシーン。先へ先へと引っ張られる展開。お見事! と拍手喝采する複線の回収。身を乗り出してはにやけてしまう。
彼女のお気に入りキャラは、今、画面の中で大騒ぎしてるブルー。変身前の格好はダサいし、しょっちゅう敵(厳密には敵対者。世界を変革したいとほざくので、家の財政を変革して欲しい夕香にはたいそう嫌われている)につかまって仲間の足手まといなくせに、ここぞの場面で誰かのピンチを救う。必ず。絶対に。ありがとうとかそんな言葉を言われるとそんなこと何だって言うんだい? って、きょとんとした顔をするのだ。
「そこがいいんじゃない。萌える!」
彼女がブルーの(正式名はブルーじゃないが、彼女達の間では青だのブルーでとおってる。主人公四人にテーマカラーが存在して、持ってる武器も色に関係のある物だ)良さを力説すると、このアニメの下請けの下請けくらいに携わっているらしい明の覇気のない目が一気に燃え上がって
「萌えるいうな! あのキャラデザの大変さを分かって言ってんのか!」
勢いよく箸を叩きつけて切り返して滔々と蘊蓄を語り出す。
その時だけは、澱んで粘った得体の知れない塊が微睡むこの家もエレクトリカルパレード並の電飾を点したように華やかになって塊の存在を忘れさせてくれる。
夫の明はアニメーターで、この家で夕香が出来るのは週に何度か帰ってくる明に日曜のこのアニメの話をして一週間を保たせることだ。
仕事疲れで話半分に寝ながら聴いている夕香にはさっぱり分からないのだが、どうやら色々なアニメに携わっているらしい。小中高と同じだったが抜群に絵が巧い。画面のキャラが紙にそのまま浮かびあがってくる。それも鉛筆一本で。機嫌が良いときには(明は大抵忙しさに死んでる)彼女が好きなキャラを描いてくれる。キャラだけでなく風景や情景も。それらは夕香が職場からこっそり貰ってきた透明なビニール袋に入れて空気を抜き、セロテープで真っ直ぐ封をして黄ばんだ壁にテープで貼り付けてある。
とはいうものの、夕香のフルタイムの稼ぎがなければやっていけないのが現状。
画面のなかではニヒルでフットワークの軽いグリーンが青ざめた強盗犯を追いかける。この強盗犯、先週敵から解放されたキャラじゃない? 伏線だわ。
子ども向けアニメとは思えないほど写実的なタッチで描かれた強盗犯は車をフラフラさせて宝石をばらまきガードレールに激突、炎上、爆発の危機。そこへもう一人のヒーローが颯爽と登場。ブルーだ。だが彼は強盗の一人にぶん殴られてふらつき、変身に必要なキーアイテム――涙の滴を落としそうになる。ブルーは涙の滴を身体から離すと変身できなくなる。だったら何でもっとしっかり身につけておかないの! と夕香はいつも怒るのだが、設定がドジらしい。ドジで足手まといなくせに必ず助けるところが萌える。
きゃあっと叫びを上げるとあかぎれの痛みすら忘れ、黄ばんだ畳をばたばた叩いた。ドン! と隣人から壁を叩かれ小さくなるがすぐにまた画面へと釘付けになる。
強盗がちゃちな拳銃で応戦するがレッドとピンクは物ともせず見事強盗犯を逮捕。
犯人逮捕後恒例の二人の口げんかとED、次回予告でレッド役の声優が素敵に「またな!」と言うところまでがこのアニメの見せ所。夕香もまた格好つけレッドの「またな!」をきっちり確認する。
8:31
未だ興奮冷めやらぬ彼女の頬は赤く染まって幸せな溜息をつく。夢見心地で味の濃すぎる麦茶を一息で飲み干すとぶり返す蝉の大合唱と暑さに不幸せの溜息が漏れた。
ニュースチャンネルへと変えると、一気にトーンダウンしてあかぎれの痛みがぶり返す。コップを握った人差し指が縦にぱっくり割れて血が滲んでいる。ワセリンを塗り込んだものの塗っても塗ってもスーパーで水仕事をしている夕香には効かない。長靴を履いた足許から冷えが来て、手袋から冷たさが染み通ってくる。
まだ二十六歳だというのに、夕香はほとんど化粧っ気もなく、髪をひっつめ、しょっちゅう苛々して、子どもが出来ないことを親に穏やかに責められる。
そういう大人だった。
真面目なキャスターとコメンテーターが間の悪いことに出生率の低迷と一向に脱却しないデフレについて延々論じている。テレビを見ている夕香の眉間に皺が寄り初め、苛々し出す。今日もこの国は不景気まっしぐら。物価は上がって消費税まで上がる。電気料金まで上がるのだから、もう、どうしていいのかすら分からない。
彼女がパートをしているスーパーでも客はいつも殺気立っている。出来上がった総菜の形が違うだけで文句を言われる。何グラム多いか少ないか。その程度の差。その隙間に夢でも入ってるならまだしも、残念ながら何にも入ってない。
当然のことを当然と受け入れられないってわけじゃない。そんなことは分かって、はね除け、その上で怒るのは、もう、八つ当たり以前の問題だ。夕香は総菜を作るバックヤードから顔を上げるといつも気味が悪くなる。誰も彼もぴりぴりした空気に染め上げられて、顔に「許さない」と書いてある。許さないって誰を? 何を?
そんな自分もそんな顔をしていることに気づいて、気づきながらもどうにも出来ない。それがまた夕香を苛々させる。生理でもないのに。
「明くん、朝ご飯。今日も会社でしょ」
夕香は苛々を少しでも減らそうと左上に表示されている時刻を確認しただけで夫が寝ている和室の襖を開け、狭いキッチンへと戻る。額にはもう汗が浮いて、セールで買った半袖から伸びる腕はパート先までの炎天下の道のりで浅黒く焼けている。
のろのろ優雅に首を振る扇風機が憎らしい。
「――分かった」
突然差し込んだ朝日に布団の上で丸くなっていた男が呻いて、間抜けな溜息をつくと腕が伸びて枕元に放り出された眼鏡を手探りする。
毎週日曜の子ども向けアニメ【ランガン℃】
その制作に携わっているのが寝跡のついた布団から起き上がり、台所の小さなテーブルの前に腰を下ろした、トランクスとTシャツ一枚の冴えない25歳の明だった。目の下を真っ黒にして無精髭を生やし、ぼさぼさ頭のまま妻・夕香が用意してくれた朝食にありつく。
聞こえないくらいくぐもった「いただきます」の挨拶。
駅前商店街で特売だった70円の6枚切り食パン。98円の甘いだけのいちごジャム。端の焦げたベーコンエッグ。形の悪いトマトとキュウリが混じったポテトサラダ。買いだめしておいたインスタントコーヒー。賞味期限ギリギリの牛乳。
夕香の視線が和室と夫に交互に伸びる。逆光になった夫はいつもより暗く沈んで見えた。彼が座っているあたりがどんよりして光が屈折している。
「また描いてたの? あんまり寝てないんじゃないの?」
「うん……ちょっと」
端がほつれた青い水玉模様のカーペット。その上に置かれた小さなテーブルに二人で向かい合っての食事。マグカップだけは赤と白のペア。あとはバラバラで一緒に暮らすとき百円ショップで買った。
避けても避けても背中に降り注ぐ夏の朝日。開け放された窓。少し破れた網戸は直されることもなく、虫除けの薬剤が吊されている。網戸を張り替えるよりは、虫除けを買ってきた方が安上がりだ。ゆっくり回転する扇風機が運ぶぬるい風。クーラーはもう少し暑くならないと使えない。クーラーを付けただけで電気代が跳ね上がるのを二人は上京してから身をもって知った。ギリギリの綱渡りの毎日のなかではたとえ一円でも貴重。安い物は徹底的に安く。高い物は買わない。
駅に近いだけが取り柄の築二十年。壁が薄く隣の物音が聞こえる。顔を合わせても挨拶すらしたことがない隣人。気づくといなくなっている住人。
上京した当初、田舎育ちの明も夕香もあまりの違いに驚いていたが今はもう慣れっこだった。結婚して五年。月収は同世代の半分以下。アルバイトの掛け持ち不可能。切り詰め切り詰め生きていく生活。
「ねえあれ貰っていい? かわいい。ね、あのデフォルメ」
玄関側に坐った夕香から険しさが消え、夫と散らばった和室を交互に見比べる。這いつくばって遮光カーテンの引かれた和室の机の上から数枚の紙を手に取った。デフォルメされたブルーとグリーンのぱらぱら漫画。キックとパンチを繰り出して敵をやっつけ最後に「ラガーン」と決めポーズの二人が言う。ラガーンが変身する際の重要な掛け声なのだ。変身アニメに掛け声・ポーズ・変身シーンは必須。
「いいよ。あげる。好きなのあったら全部あげるよ」
明は眼鏡の奥の目を細めるとやけにはきはき応じる。
ブルーとグリーンを手に取り背中を向けた夕香はいつもと様子の違う夫に気づいたが黙っていた。彼は引っ込み思案でヘタレでダサいくせにここぞという時は全部決めて終わった後で言う。夕香に告白したときのように。あ、だからブルーが好きなのね。彼女はその時初めて納得した。なるほどブルーは夫にそっくりなのだ。
背を向けたまますべての紙をまとめていた夕香は、もそもそ食事に戻った夫に理由ない苛々を抑えつつ胸の裡で励ましを送った。
きっと彼が抱えているのは碌でもないことなんだろう。でも、明は明なりに夕香を考えて思って黙っていてくれるのだ。どうせ碌でもないことなら全部終わって後で聴いた方がいい。もう、何の手の打ちようがないってくらい終わっていれば、ほっとする。
(続く)
2012-05-01
どこから?どこまで?
おはようございます。15時間睡眠をしてしまって、まったく眠くない三日月 理音です。
今朝は気晴らしに「どこから?どこまで?」を。
二次創作をやっていて一番困ったのがキャラクターにどこまでオリジナルを付与させていいのか、でした。
私が書いたバニーにはそばかすがあるし、二人きりになるときりきり怒らない。
虎徹さんは表立っては五月蝿いけれど、二人きりになると静かな人というものでした。
おわかりのとおりアニメ本編とまったく違います。
三日月としてはそちらの方がいいだろうと考えた上での判断でした。
というのも、キャラクターを掘り下げて行ってしまうと同じものに当たってしまうのでは?と思ったからです。
まー思った通り、これで苦しむ羽目になりました。
どこからどこまで準拠しなければならないのかが、さっぱり分からず何がなにやら・・・で
こりゃ無理だわに至ったのですが、どこからどこまでを規定しなければならないのでしょうかね。
オリジナルキャラを出して、そちらから見る彼らというのも面白いなとも思ったりしたんですが。
というか、もう喋り方まで違ってきてしまったので(喋り方も違うという設定にしてたので)
とほほ・・・
今朝は気晴らしに「どこから?どこまで?」を。
二次創作をやっていて一番困ったのがキャラクターにどこまでオリジナルを付与させていいのか、でした。
私が書いたバニーにはそばかすがあるし、二人きりになるときりきり怒らない。
虎徹さんは表立っては五月蝿いけれど、二人きりになると静かな人というものでした。
おわかりのとおりアニメ本編とまったく違います。
三日月としてはそちらの方がいいだろうと考えた上での判断でした。
というのも、キャラクターを掘り下げて行ってしまうと同じものに当たってしまうのでは?と思ったからです。
まー思った通り、これで苦しむ羽目になりました。
どこからどこまで準拠しなければならないのかが、さっぱり分からず何がなにやら・・・で
こりゃ無理だわに至ったのですが、どこからどこまでを規定しなければならないのでしょうかね。
オリジナルキャラを出して、そちらから見る彼らというのも面白いなとも思ったりしたんですが。
というか、もう喋り方まで違ってきてしまったので(喋り方も違うという設定にしてたので)
とほほ・・・
2012-04-20
最近読んでいるもの、書いている物
二次からオリジナルへ戻ってきた三日月理音です。
おはようございます。
さっそくですが、最近書いているものなど。
【書いてる物】
文具戦記という骨太戦記物の設定をある方と一緒にTwitter上でこねくりまわしています。
文具好きが高じて、文具の名前を使った物語を書いてみよう!という予定だったのですが、
もはや文具通り越して超がつくほど骨太かつ重厚な設定が出来上がっております。
お互いの見方が正反対だったのでボールの投げ方・打ち返し方が全く違う!
そのため面白いものになっております。
対話ってこういうことを言うんだろうなあ・・・を実感中。
(#文具戦記で断片が見られますが、著作権は放棄していませんので使用許可は出しません。念のため。著作権侵害多いから)
→全文公開しています。
設定1〜4(随時更新)
http://togetter.com/li/272896
http://togetter.com/li/272896
http://togetter.com/li/272896
http://togetter.com/li/272896
閲覧上の注意として、
【閲覧上の注意】
編集はひとまず不可にします。
ネタを使用する場合は、双方の許可を取ってください。
ご意見ご感想お待ちしております。
以上のことを守って楽しくどうぞ。
となります。
双方とは、三日月と一緒にやってくださってる方(辿っていくと名前があります)です。
個人では「オリジナル千本ノック」と称して、30日で一本書くというのをやりはじめました。
慌ただしいですが、書かないと書き方を忘れますからね。練習練習。
プロットの作り方も一から見直ししているので今年は収穫が多そうだ!
※pixivアカウントは現在更新停止中です。
新規アカウントを取得する予定です。
【読んでるもの】(一言感想)
坂道のアポロン・・・ノイタミネ枠で見たので買ってきましたが、ジャズを扱うって珍しい。
銀の匙・・・おめでとう漫画大賞!取ると思ったけど!が、安定して面白いんだよねえ。タマゴ・・・
蕃東国年代記・・・もうちょっとで終わるんですが。〜た。のリズムにじゃっかんの抵抗を覚える。日本昔話風味。短編集で終わり終わりに挟まっている引用が蕃東という国がまるであるかのように思わせてくれる。こういう小ネタは好ましい。歴史を取り扱うってことの重さを実感している最中なので。
野生時代読み切り文庫9・・・淡々としているAXのシュールさ。句点の入れ方が面白い。言い回しも変わってる。伊坂幸太郎は『グラスホッパー』で読んだきりなのですが、こんなだったっけ?変わった名前が出てきたのは覚えてる。蝉とか。終わり方もシュールだった。思い出すとぞっとする。あの薄気味の悪さ!
アンダー・ザ・ドーム・・・序盤も序盤のくせに嫌な感じしかない。結末が気になるが目と頭が持たないので一気読みできない。
あと本当にちょろちょろと手を出しております。
そうそう。
二次創作から元のブログに戻ります。
おはようございます。
さっそくですが、最近書いているものなど。
【書いてる物】
文具戦記という骨太戦記物の設定をある方と一緒にTwitter上でこねくりまわしています。
文具好きが高じて、文具の名前を使った物語を書いてみよう!という予定だったのですが、
もはや文具通り越して超がつくほど骨太かつ重厚な設定が出来上がっております。
お互いの見方が正反対だったのでボールの投げ方・打ち返し方が全く違う!
そのため面白いものになっております。
対話ってこういうことを言うんだろうなあ・・・を実感中。
→全文公開しています。
設定1〜4(随時更新)
http://togetter.com/li/272896
http://togetter.com/li/272896
http://togetter.com/li/272896
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閲覧上の注意として、
【閲覧上の注意】
編集はひとまず不可にします。
ネタを使用する場合は、双方の許可を取ってください。
ご意見ご感想お待ちしております。
以上のことを守って楽しくどうぞ。
となります。
双方とは、三日月と一緒にやってくださってる方(辿っていくと名前があります)です。
個人では「オリジナル千本ノック」と称して、30日で一本書くというのをやりはじめました。
慌ただしいですが、書かないと書き方を忘れますからね。練習練習。
プロットの作り方も一から見直ししているので今年は収穫が多そうだ!
※pixivアカウントは現在更新停止中です。
新規アカウントを取得する予定です。
【読んでるもの】(一言感想)
坂道のアポロン・・・ノイタミネ枠で見たので買ってきましたが、ジャズを扱うって珍しい。
銀の匙・・・おめでとう漫画大賞!取ると思ったけど!が、安定して面白いんだよねえ。タマゴ・・・
蕃東国年代記・・・もうちょっとで終わるんですが。〜た。のリズムにじゃっかんの抵抗を覚える。日本昔話風味。短編集で終わり終わりに挟まっている引用が蕃東という国がまるであるかのように思わせてくれる。こういう小ネタは好ましい。歴史を取り扱うってことの重さを実感している最中なので。
野生時代読み切り文庫9・・・淡々としているAXのシュールさ。句点の入れ方が面白い。言い回しも変わってる。伊坂幸太郎は『グラスホッパー』で読んだきりなのですが、こんなだったっけ?変わった名前が出てきたのは覚えてる。蝉とか。終わり方もシュールだった。思い出すとぞっとする。あの薄気味の悪さ!
アンダー・ザ・ドーム・・・序盤も序盤のくせに嫌な感じしかない。結末が気になるが目と頭が持たないので一気読みできない。
あと本当にちょろちょろと手を出しております。
そうそう。
二次創作から元のブログに戻ります。
2012-03-13
【全力応援】【拡散希望】【記事書いてる人間は出ないけど】【あんまりにも素敵なので】【無理言って記事に書かせて貰った】【そんなお知らせ!】【勿論T&B!】SMTアンソロジー
Twitterでお世話になっております nikeさん 白河だふねさんが主催するアンソロジー
その名も『SMT Anthology』(なんたるエロス!)が5月4日にSUPER COMIC CITY21で発行されるそうです!
注! 三日月は参加しないのですが、 nikeさんに「素敵だからブログでお知らせしても良い?」とお尋ねしてOKもらった次第です。ですので文責は三日月にあります。ご了承ください。質問などは両主催さまにお願いします。
R18なのでまだ高校生のお嬢ちゃん、お坊ちゃん方はこのままページを閉じてしまおうね
ここから先は大人ゾーン
18歳以上のお姉様、お兄様方気になります?
そんなあなたは続きを読むをクリック プリーズ
その名も『SMT Anthology』(なんたるエロス!)が5月4日にSUPER COMIC CITY21で発行されるそうです!
注! 三日月は参加しないのですが、 nikeさんに「素敵だからブログでお知らせしても良い?」とお尋ねしてOKもらった次第です。ですので文責は三日月にあります。ご了承ください。質問などは両主催さまにお願いします。
R18なのでまだ高校生のお嬢ちゃん、お坊ちゃん方はこのままページを閉じてしまおうね
ここから先は大人ゾーン
18歳以上のお姉様、お兄様方気になります?
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2012-03-09
二次創作に参加させていただくもの
参加させていただくアンソロジーについて。
【アンソロジー参加】
『花廓』(虎徹受けアンソロジー)R18
主催:時任 那智様 共催:とんざわ様
告知サイト 虎徹受け遊郭パロアンソロ『花廓』
http://deuterium.web.fc2.com/an/index.html
以下、アンソロジーページより引用です。
【価格】 1500円
【サイズ】 A5
【ページ数】 276p
【指定】 R18
【発行日】 2012年5月4日 SUPER COMIC CITY 21
虎徹受。兎×虎、モブ×虎、ジェイク×虎等全てを含みます。
虎徹受ですが、必ずしも虎徹が花魁・陰間であるというわけではありません。
2012年5月4日「SUPER COMIC CITY 21 」(東3ホール メ30b)
2012年5月5日「僕のヒーロー4 」 (G3)
2012年5月6日「COMIC CITY 大阪89」 (6号館Bゾーン ウ62a)
※上記イベント全てで必ず販売致します。
書店委託:虎の穴様→通販開始しています。
自家通販(余分があったときのみ)
5月4日が初売りなのでみなさま頑張って下さい!
以下、続報を待て
にょたばに虎兎アンソロジーR18
主催:霧耶ひみ様
【発行日】8月発行予定だそうです。
また改めてブログにUP及びリンクさせていただきます。
楽しみですなあ〜♪
【アンソロジー参加】
『花廓』(虎徹受けアンソロジー)R18
主催:時任 那智様 共催:とんざわ様
告知サイト 虎徹受け遊郭パロアンソロ『花廓』
http://deuterium.web.fc2.com/an/index.html
以下、アンソロジーページより引用です。
【価格】 1500円
【サイズ】 A5
【ページ数】 276p
【指定】 R18
【発行日】 2012年5月4日 SUPER COMIC CITY 21
虎徹受。兎×虎、モブ×虎、ジェイク×虎等全てを含みます。
虎徹受ですが、必ずしも虎徹が花魁・陰間であるというわけではありません。
2012年5月4日「SUPER COMIC CITY 21 」(東3ホール メ30b)
2012年5月5日「僕のヒーロー4 」 (G3)
2012年5月6日「COMIC CITY 大阪89」 (6号館Bゾーン ウ62a)
※上記イベント全てで必ず販売致します。
書店委託:虎の穴様→通販開始しています。
自家通販(余分があったときのみ)
5月4日が初売りなのでみなさま頑張って下さい!
以下、続報を待て
にょたばに虎兎アンソロジーR18
主催:霧耶ひみ様
【発行日】8月発行予定だそうです。
また改めてブログにUP及びリンクさせていただきます。
楽しみですなあ〜♪
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